★ ADR 裁判外紛争事例

 

パワハラ事例 編

 

1)事件の経緯


<労働局に対するあっせん事例>

・申請人X(女性正社員)
・本社が大都市圏にあるアパレル業のP店(事業場スタッフ5人)に勤務
・被申請人Y社のA取締役部長(東京の営業部長)から退職勧奨されたり、人格を傷つける言葉を掛けられてきたことで精神的に追い詰められ、1年半後にうつ病と診断され、休職。労働局へあっせん申請。

〜詳細

・入社後研修にて同僚と言い争い。この件でA部長から「辞めてもらって構わない」と言われる。
・その後A部長に常に無視されているように感じる。
・酒席にて同僚に「Y社の人事ホットラインへ相談しようか」と相談した内容がA部長の耳に入り「お前は酒の席でおれの悪口を言った。会社の服務規程に反する。普通なら解雇だ!」と言われる。

P
店にて
・会社の重要連絡事項が知らされない。

・顧客からXに送られたものが1カ月ほど放置されていた。
等々があり、同僚の前で不満を爆発させた。

・数日後A部長が来店し、
「お前は人にマイナスしか与えない最低の人間や」

「皆のやる気をなくさせている」

「今度やったら解雇する」

「悪いと思ったら皆に謝れ」

「反省文をメールしろ」

「人の話を聞いていない、幼稚園児以下や」

「前店長の築いたP店をお前は壊している」

等と発言。また、これまでXは前店長たちに相談し心の平穏を保っていたが、A部長はそれも制止し、以降相談できなくなり、精神的に追い詰められ、自分を責め、自殺したいと思い始めた。

 

翌月もまた、A部長から

「お前は何も変わっていない」

「店の雰囲気が悪いのはお前のせいだ」

「前の会社も人間関係を乱して辞めたんじゃないのか」

と責められる。

 

4ヶ月後、

Y社では今、チームワークを乱す奴を辞めさせている」

「お前もリストラの対象に挙がっている」

「辞めさせたい奴に辞めるように仕向けているんだ」

と、A部長から言われ、Xはリストラの恐怖におびえ始める。

 

半年後、P店で2人が3カ月後に辞めることをXが知らなかったことについてA部長が、

「(P店)少ない人数でお前だけ2人が辞めることを知らないなんておかしい」

「それだけ皆の輪に入っていない(ということだ)」

2人はXのせいで辞めるのではないと言っているが、俺はお前のせいで辞めることも少しはあると思う」

と発言。

 

Xは売上も上がっていたが、A部長は

「お前は会社に全く貢献していない」

と言った。また、

「今までの男性社員はお前の扱いに困っていた」

等とも発言した。

 

その後、Xは他店への異動を申し出たが、A部長は

「人事部長がお前は協調性がないからダメだと言った」

「噂は広まるんだ。もっと頑張れ」

と言った。Xは人事部長までそう思っていることにショックを受ける。

 

Xは人と接することが怖くなり、病院でうつ病と診断される。その後休職したが、この間もA部長のことを思い出すとパニックになったため、早期に会社を辞めようと決意した。

 

 

2)あっせん申請内容


@Xの人格を傷つけるような言葉による嫌がらせがあったことをY社が認め謝罪すること。
AA部長等の嫌がらせが原因でうつ病になり退職せざるを得ない状況に追い込まれたことにより被った精神的、経済的損害に対して、賃金の半年分相当額(130万円)と未払い残業代の70万円の合計200万円を支払え。


3)あっせん手続の経過

 

Y社はあっせんには応じる。

A部長は「Xに対し退職勧奨していない。言葉等による嫌がらせもしていない。」
・会社とうつ病発症の因果関係は不明。
 として謝罪は拒絶。が、解決金として賃金1カ月相当額22万円の支払いには応じる姿勢をみせる。

X
・未払い残業代を含め100万円の支払いを譲らず。

〜あっせん委員
Xに対しあっせん打ち切りの方針を伝える。

X
・「紛争の継続は私の病気を悪化させる可能性がある。金銭的に譲歩するのであっせんを継続し、今日限りで解決してもらいたい」

と強い要望を出す。

 

〜あっせん委員
・再調整

〜あっせん結果

Y社がX35万円の補償金を支払うことで合意。

 

※参照文献『個別労働関係紛争処理事案の内容分析』 
 独立行政法人 労働政策研究・研修機構 編

 

パワハラの6つのパターン

 

@   リストラ型

解雇せず退職に追い込む

A   職場環境型

余裕のない閉鎖的な職場

B   人間関係型

希薄な人間関係から生じる摩擦

C   自己責任型

スピードが上がり、ミスが許されない職場

D   セクハラ型

男性中心の職場環境と根強い女性蔑視

E   教育指導型

アカデミックハラスメントや熱血指導


※職場のハラスメント研究所 提唱 『ハラスメント対策全書』264頁より


考察

 

・今回の事例において、XY社に相談している形跡がありません。もちろん、最初に人事ホットラインへ相談することを、行為者であると申し立てたA部長に罵られ諦めざるを得なかった、という経緯があるにせよ、そういった苦情処理機関を会社組織内に設置しているにもかかわらず機能していない、という事実をY社は反省する必要があるでしょう。

・パワハラは8割型あっせん調整で済む、という意見があります。今回の事例を上記の6つのパターンに当てはめてみると、経緯を見る限り「B人間関係型」に分類できると思われます。もちろん、最終段階では「@のリストラ型」もその範疇に入っているようですが、そもそものきっかけはA部長とXのコミュニケーションギャップが発端のように感じます。とすれば、Y社の苦情処理機関が周知徹底され、信用される機関として機能していれば、A部長・Xの感情のボタンの掛け違いを早期に修正出来ていた可能性もあったのではないでしょうか。

・パワハラはセクハラ以上に業種別で違う、と言われています。本事例のようなアパレル業では、Xのように店舗スタッフは女性が多く、本社勤務は男性が、といった所がまだ多いように思われます。A部長が言ったとXが主張する発言の中にも「今までの男性社員はお前の扱いに困っていた」といったものがあります。これはある意味「Dセクハラ型(環境型セクハラ)」に分類され得る対応といえるかも知れません。あるいは、性的な役割に囚われるジェンダーハラスメントかも知れません。

Y社としては、あっせん結果に関わらず今回の事例を会社にとって不幸な一事例として封印するのではなく、どういった対応(特に苦情処理機関について)がとれていたのか? 伝統的な性別分担意識が根底(社風として)にあるのか? それはアパレル業(詳細は不明ですが、レディースを扱う店舗なら特に)として適切なのか? 等々といった足元から自社を再度見つめ直すきっかけにするべきでしょう。

 

補足

 

・今回の事例では、Xがあっせんでの解決を望んだが故の終結となっています。しかし、全ての方が本訴までは進みたくない、と考えているわけではありません。

・本訴にまで進展することによるデメリット。例えば公開されてしまう、情報が隠せない、といった事態は、当該事案の解決のみならず、今後の経営活動に少なからず影響を与えます。誰しも「パワハラが日常的に発生している職場」にて働きたいとは思わないでしょう。今回のようにアパレル販売なら、顧客が抱くブランドイメージにも傷が付いてしまいます。

・いい意味での差別化ではなく、逆差別化とでもいえるような事態に発展させないためにも、いかにしてハラスメント予防に腐心するか。

・経営者の強いリーダーシップの元、職場環境の風通しを良くすること。人間関係を疎かにする企業は、やがて淘汰される。最近はこう言い切る精神科産業医の方もおられます。メンタルヘルス不全にも繋がるハラスメントを起こさない企業。現代経営では、事業継続の必須要因の一つといえるでしょう。


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