★ セクハラ裁判事例

 

1.福岡キュー企画事件(福岡地裁 平成4414日)
・環境型セクハラに関するリーディングケース

 

<事件の概要>

 雑誌社(Y2)の編集長(Y1)が、パートとして入社し、その後能力・経験を買われ正社員になったXに対し、(]の能力に対する)嫉妬等の感情から社内の関係者にXの私生活、ことに異性関係が乱脈であるかのようにその性向を非難する発言をした。

 

 また、Xの異性関係の個人名を具体的に挙げて(それらすべて会社関係者)会社内外の関係者に噂を流布した。

 

 上司であるB専務に報告し、Xを退職に追い込んだ。

<Xの請求>

Y1の一連の行為は、女性だからという理由で行われた性差別であり、セクシュアルハラスメントに該当する違法な行為であり、民法709条に基づく不法行為責任を負うべきである。

Y2は、Y1の行為及びBらの行為が「事業の執行につき」行われたものであるから、共同不法行為責任を負うべきである。

・精神的慰謝料300万円と弁護士費用67万円の支払いを求める。

 

Y1Y2の主張>

・セクハラ行為の否認。

・Xに関する噂があったとしても、それは]自身が他の者に話したりしたものである。

またY2

・XとY1の問題は、本質的には私的な事柄であり、その対応に対し、法的に非難されるべき点はない。

<判決>

・慰謝料150万円。弁護士費用15万円。(Y1Y2が連帯して)

Y1の不法行為責任とY2の使用者責任(民法715条)を認めた。

 

・本件は、福岡高裁で実質的に原告勝訴の和解が成立。

<コメント>

・本事案における会社側の対応。

]及びY1から報告や訴えを受けていたBは、これを個人的な問題だと判断し、両者による話し合いを促したが成功せず。BはXとの面談を実施。その面談にて、XはあくまでもY1の謝罪を求める。そのためBは、もし話し合いがつかない場合は、Xに退社してもらうことになると告げたため、]は退職する。
 ところが、もう一方の当事者であるY1に対しては3日間の自宅謹慎と賞与の減額がなされたに留まった。

 

・会社側の対応の問題点
1
)Bらが早期の事実調査等を行わなかった。

2)適切な職場環境の構築をしようとしなかった。

3)当事者の一方である]の譲歩、犠牲において職場関係を改善しようとした。

・考察

 早期の調査に基づき、Y1のセクハラ行為に対する適切な処置を実行していれば、少なくともY2に対する結論は違っていた可能性が高いと思われます。ただし、本案はセクハラ事件のリーディングケースとされるように、本案発生時におけるセクハラに対する認識の乏しさが当該対応を招いたとも考えられます。とすれば、セクハラに対する問題意識が格段に向上した現在においては、本案のような事後処置は決して行ってはならないと肝に銘じるべきでしょう。

 

 

2.横浜セクハラ事件(1審:横浜地裁 平成7324日。 2審:東京高裁 平成91120日)

1審 原告の請求棄却。2審原審判決取り消し、不法行為責任肯定。

※被害者の心理を科学的、合理的に分析することが大切であると世に知らしめた裁判例。

 

 

<事件の概要>

 被告Y2会社に勤務する原告女性従業員Xは、被告男性上司Y1(部長兼営業所長)が、

1)Xの席の近くを通る時にXの肩をたたいたり頭髪をなでるようになったこと。

2)Xが腰を痛めた時「良くなってきた」といって腰を触ったこと。

3)事務所で2人になったとき肩を揉んだり頭髪を弄んだりしたこと。

4)2人で外出した時に「今日はありがとうね」と言いながら肩を抱き寄せたこと。

5)事務所で2人になった時、Xの後方から抱きつき、服の下に手を入れて腰や胸を触り、口を開けて舌を入れようとしたり、腰を密着させて]のズボンの上から指で下腹部を触ったりしたうえ、その行為から逃れようとした]に20分もの間、執拗にこのような行為を継続したこと。

6)3日後にDの行為を認めて謝罪したものの、それを後に否定し、その事実をXから告げられたY2社代表取締役から叱責されたのちは、]に仕事をさせないようになり、]を退職に追い込んだこと。

から、Y1に対し、不法行為を理由とする損害賠償請求訴訟を提起。

同時に、Y2並びにY1Y2に出向させているY3会社に対して、使用者責任に基づく損害賠償の支払いと、新聞紙上に謝罪広告を掲載することを求めた。

 

Y13、]主張のセクハラ行為の否認。

1審判決>

 ]の請求棄却

2審判決>

 ・原審取り消し。

 ・Y1Y2に対し、連帯して慰謝料250万円、弁護士費用25万円の請求を認容。
Y3については、実質的な指揮監督関係がないとして使用者責任及び不法行為責任を認めなかった。

 ・謝罪広告についても認めなかった。

 

Y1の]に対する不法行為は、いずれもY2事務所内において部下である]に対し勤務時間内に行われ、Y1の上司としての地位を利用して行われたものであり、Y2の使用者責任は肯定された。

※但し、Y1の配置転換等]の労働環境を改善する措置(下記、会社の対応より)を講じなかったことについて、Y1に謝罪させたこと、]とY1の供述に大きな違いがあり、事実関係を肯定できるだけの(セクハラ事件は密室で行われることが圧倒的)証拠を得ることが困難であったこともありY2の不法行為責任は否定された。

<会社の対応>

Y1に対する事情聴取2回。

Y1に対し、厳重注意、謝罪を命じた。

・但し、]要請のY1の配置転換は拒否し、]に本社勤務を打診した。

<考察>

 1審において、「事件の概要D」の行為について、

20分もの間、]がY1の為すがままにされていたということ自体考え難いこと。

・外へ逃げるとか、反射的に悲鳴を上げて、営業所の外に助けを求めたりすることもできたはず。

・そのような行動をとらなかったばかりか、かえって冷静な思考及び対応(上記の他、行為があった直後にも、]が普段と変わらず職場で昼食をとっていたこと等を疑問視した)のあったことさえ窺われ、そのような言動は不自然といわざるを得ない、として]の請求は棄却さました。

 

 ・しかし、2審では米国の強姦被害者の対処行動に関する研究に照らし、「被害者たる女性の思考として不自然又は不合理なものと断定すべきものでもない」として、]の供述の信用性を認め、Y1のわいせつ行為を認めました。


 ・被害者が女性である場合、その供述内容に矛盾を感じても、事案内容によっては一概に即時否定すべきではない場合があることに留意する必要があるといえます。

<セクハラの類型>

・]の主張は対価型ですが、環境型に分類されています。

<民法上の不法行為が成立するには>

・権利または法律上保護される利益の侵害の有無

・侵害行為の態様の程度

が、問題となります。

 

 「侵害行為の態様の程度」とは、行為態様の悪質さ(言葉によるもの行動を伴うものか、身体への接触の有無・部位・態様等)反復継続性、行為の目的、時間(勤務時間中なのか)、場所(他に人がいない場所か否か)、加害者・被害者の関係(上司と部下か)などを総合的に考慮し、当該行為が社会通念上許容される限度を超えるものか否かによって判断される、とされます。



 

3.岡山セクハラ事件(岡山地裁 平成14515日)
※損害賠償金額等が高額

 

<事案の概要>

 Y1Y3社の専務取締役営業部長)は]1に対し、上司としての立場を利用して異性関係を問いただしたり、電話をする等の行為をし、さらには後継者の地位を利用して肉体関係を持つように求めた。

 また、]1と親しくし、Y1の行為に関する相談を受けていた]2に対して、Y1は]1と肉体関係を持てるよう協力することを要請した。

 

 ]1、]2とも拒否。そして]1、]2らの数名の従業員でY2Y3会社の代表取締役)にY1の行為を訴えた。

 

 Y2は役員会議を開き、]1らから事情を聴取したもののセクハラの事実を否定。その後Y1は自らのセクハラを否定しつつ]1は淫乱である等と繰り返し述べ、]1と他の社員との関係を壊し、]1の職場復帰を不可能にした。また、]2についても同様に淫乱である等の風説を流布した。

 上記役員会議後、]1、]2ともに支店長職を解任され一般社員に降格され、月額給与も段階的にとはいえ]170万円から30万円に、]280万円から32万円に引き下げられ、最終的には仕事も取り上げられた挙句、給与の入金もなくなっていた。(改善の見通しが立たないと判断し、]1・]2とも退職を余儀なくされた)

 

 ]1らは、Y1のセクハラ行為、Y2の性的嫌がらせないし男女差別発言が不法行為等に当たるとし、民法709条に基づき、Y1らに対し損害賠償請求訴訟を提起した。

 

Y1らはセクハラ行為を否認した。

 

<判決>

]1Y1のセクハラに対する慰謝料200万円、Y3固有の不法行為による慰謝料50万円、未払い賃金相当損害金339万円、逸失利益799万円(中間利息控除後の1年分給与)、弁護士費用(Y1につき20万円、Y3につき140万円)。

 

]2Y1のセクハラに対する慰謝料30万円、Y3固有の不法行為による慰謝料50万円、未払い賃金相当損害金356万円(中間利息控除後の1年分給与)、逸失利益914万円、弁護士費用(Y1につき3万円、Y3につき130万円)。

 

 なお、Y1についてはY1Y3の連帯責任とし、Y2の不法行為責任については認めなかった。

<会社が問われた責任>

Y1X1らに対する性的言動と、X1らがこれを拒否したことに対するY1の制裁に関する使用者責任。

 

Y1の行為に関してX1らがY3会社に訴えた後におけるY3の不適切な対応及び処分に関する固有の不法行為責任。

 

※なお、<事件の概要>に記載はないが「子供はまだか?」というY2の性的言動は違法とまではいえない、と判断されている。しかし、当該発言は職場秩序を乱すものといえるし、トップ自らのこういった言動は、Y3にセクハラを引き起こす土壌があった証といえるのではないだろうか。

<考察>

・判決を見てもわかるように、当該事案の損害賠償金額はかなり高額なものとなっています。これはY3社の対応があまりにも不誠実、いい加減なものであったと裁判所が糾弾したからと考えられます。

 

・損害賠償金額の多寡もそうですが、このような経営者(Y1及びY2)が存在している企業に勤務する労働者が、果たして今後も会社の為に粉骨砕身働こうと考えるでしょうか?


・専務であるY1の保身を優先するあまり、Y3社が失った社内外に対する信頼(Y3社は人材派遣会社)は、損害賠償金額以上に大きなものであったと言えます。

 

・本事案は、行為者とされる者の立場・地位に拘泥することなく、被害者が被害を訴えた場合には真摯に対応し、客観的立場にて調査した結果に則った対応をする必要性を、改めて認識させられるものと言えます。



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